キャンドゥ(Can☆Do)550円USBミニスピーカーの分解調査

キャンドゥ550円USBミニスピーカー
2021年、ダイソー300円USBミニスピーカーのライバルを発見しました!
100円ショップ キャンドゥ(Can☆Do)から発売された550円(税抜500円)USBミニスピーカー。
パッケージには『迫力の重低音』と謳われており、(無改造では)低域が弱かったダイソー300円をライバル視している様子がうかがえます。

早速購入して両者を比較しながら分解調査してみました。

<ご注意>
このサイトを参考に改造を行い、火災、感電、PCの故障等がおきましても筆者は一切責任を取ることはできません。必ず自己責任で実施してください。

両者の音の比較はYouTubeに動画をアップしています。

1、スピーカー部

キャンドゥ550円USBミニスピーカーvsダイソー300円スピーカー
まずはスピーカー部について、ダイソー300円スピーカーと比較しながら見ていきます。
パッケージには『迫力の重低音』と謳われておりますから、どんなエンクロージャやスピーカーユニットなのか気になります。

エンクロージャ

まずは前から見た写真です。
ダイソー300円vsキャンドゥ550円エンクロージャ外観比較_前から
高さは、ダイソーよりもキャンドゥの方が一回り高いです。
横幅はほぼ同じです。ダイソーから買い換えてもデスク上で占有する横幅が同じになるようにして、買い替えを狙っているのでしょうか?

キャンドゥの方は、スピーカーが前面より少し引っ込だ場所に固定されており、スピーカーの周りをホーン形状としたコンポのスピーカーのようなデザインになっている点も特徴的です。

持った感じの重量感は、キャンドゥの方が明らかに軽いです。
ダイソーの方は値段の割にずっしりしとした印象、キャンドゥの方は値段相応の軽さといった印象です。
続いて、横・上から見てみます。
ダイソー300円vsキャンドゥ550円エンクロージャ外観比較_上・横から
奥行きもキャンドゥの方が大きいです。
特徴的なのがボディ形状の傾斜で、キャンドゥの方は90°に近いですが、ダイソーの方は角度が付いています。
設置環境にもよりますが、ダイソーの形状の方が、机に設置した際にスピーカーが斜め上を向く形になります。
ダイソーの方が音軸が斜め上を向き、耳付近に高音域が届きやすく有利と思われます。
続いて、背面です。
ダイソー300円vsキャンドゥ550円エンクロージャ外観比較_背面
まず、ダイソーのスピーカーは背面にバスレフポートがありますが、キャンドゥのスピーカーは前面・側面含めどこにもバスレフポートや穴の類はありません。
よって、ダイソーはバスレフ型、キャンドゥは密閉型です。

エンクロージャの組み付けは、ダイソーがしっかりとねじ止めされているのに対し、キャンドゥの方はピンと穴がはめ込まれているだけです(後述)。

フラットな特性のままでは両方とも低域はスカスカですが、イコライザでバスブーストして聴き比べてあげると両者の違いが分かります。
ダイソーの方が低域のボリューム感がある印象ですが、超低音域は出ていません。
良く知られているバスレフ型エンクロージャの特徴通り、低音域がスパっと落ちている印象です。

一方、キャンドゥの方は低域のボリューム感はなく、密閉型の特徴を表す締まった低音です。
バスブーストのカットオフ周波数が高すぎると低音が小さな箱に閉じ込められてモゴモゴした音になってしまいます。
かといってカットオフ周波数を下げるとスカスカ感が改善で来ません。
さらに、ねじ止めとはめ込みの差や材料自体の差もあるようで、キャンドゥの方はボリュームを上げていくと箱が共振しているような鳴りが気になります。

参考として、50HzのWaveGeneというフリーソフトを使って50Hzの正弦波(サイン波)を聞き比べてみると、エンクロージャ形式の違いが良くわかります。
共振周波数以下がスパっと落ちてしまうバスレフ型エンクロージャを採用するダイソーの方は、基本波成分が聞こえてきません。
一方低域がダラダラ下がっていく密閉型エンクロージャを採用するキャンドゥの方は、かすかではありますが基本波成分が聴こえてきます。
ただし、『迫力の重低音』とはほど遠い印象ですし、単純な正弦波を再生できても、肝心の音楽を聴いた際にモゴモゴなってしまっては元も子もありません。

バスブースト前提の低域重視ならば、ダイソーがおススメです。
ダイソー300円vsキャンドゥ550円エンクロージャ外観比較_這いまわし
次に、「ステレオ再生における左右の音のバランス」では、キャンドゥの構造が理想的です。
ダイソーは片方のエンクロージャにアンプが内蔵された構造ですが、キャンドゥはアンプがケーブルの途中に別体となって設けられています。

ステレオ再生の視点で、キャンドゥの方が優れる点は、具体的には2点あります。

1点目はキャンドゥの構造ですと左右でエンクロージャ内部の構造が同じになり、左右のスピーカーでの音質の差が発生しない点です。
ダイソースピーカーでは、音量を上げていくとアンプ搭載側はボリュームつまみの脇から指で感じ取れるほど空気が漏れており、これでは左右のバスレフポートの音に差が出てしまいます。
2点目はキャンドゥの構造ですと左右のスピーカーケーブル長が同じになり、左右のスピーカーで音量の差が発生しない点です。
配線は電気抵抗を持ちますから、ダイソースピーカーの構造ではアンプが無い側のスピーカーにだけ抵抗を挿入しているのと等価になり、アンプが無い側の音量が小さくなってしまいます。

よって、「ステレオ再生重視」ならキャンドゥがおススメです。

エンクロージャの分解

続いてエンクロージャを分解します。
2021年3月時点、キャンドゥのスピーカーはねじ止め構造ではなくはめ込み構造です。
ネジ穴のような顔をしているため、最初騙されてしまいました(^^;
キャンドゥ550円エンクロージャの開け方
エンクロージャの分解方法ですが、ドライバーのような金属製の長い棒を用意し、背面にある4つの穴に差し込んで押し込むだけです。
グッと力を入れると、前蓋が外れてきます。
4箇所均等に少しずつ外していくと、最後はパかっと外れます。
キャンドゥ550円エンクロージャの内部
エンクロージャの内部構造です。
内部に吸音材は無く、単純な密閉型です。
ケーブルが出る部分が補強されていたり、背面に長丸状の補強形状が設けられていたりと、それなりに剛性を考えた設計になっているようです。

スピーカーユニット

次に心臓部、スピーカーユニットを見てみます。
ダイソー300円vsキャンドゥ550円スピーカーユニット比較
フレーム取り付け寸法は同じですが、マグネットはダイソーが圧倒的に大きいです。
ダイソーのマグネットはかなりお買い得感がありますが、キャンドゥのマグネットは値段相応のマグネットといった印象です。

振動板の構造は、ダイソーは紙コーン全体に塗装された樹脂製の逆ドームを貼りつけた構造、キャンドゥは紙コーンの中央にソフトドーム型のセンターキャップを設けた一般的な構造です。

音を聴いた印象では、ダイソーは金属的な印象、キャンドゥはソフトな印象です。

エッジはどちらもストロークが取れる柔らかい素材のエッジです。
キャンドゥの方はエッジに光沢がない、ピュアオーディオスピーカーで見るようなウレタンエッジです。

低域の再生には強力な磁気回路と重い振動板(M0,エムゼロが大きい)が有利です。
逆に透き通るような中高域には軽い振動板が有利です。
エンクロージャ自作前提でユニットとして買うならば、低域重視ならダイソー、中高域重視ならキャンドゥを選びたいです。
エンクロージャを自作するならば、両者を一つのエンクロージャに一つずつ収めて2Wayにしてみるのも面白そうです。
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2、アンプ部/回路図

続いてアンプ部を分解します。
ケーブルの中間にあるボリュームつまみのついている部分に小さなアンプ基板が入っています。
キャンドゥ550円スピーカーアンプ部分解
アンプ部もピン2本ではめ込まれているだけですので、マイナスドライバーを隙間に挿入して少しずつ外していくと分解できます。
内部の基板を損傷しないよう、まずはケーブルの根本あたりに小さな精密マイナスドライバーを差し込んで隙間を設け、後はマイナスドライバーを ヘラ のように使って開けていくと楽でした。
キャンドゥ550円スピーカーアンプ基板ボリューム面
ピンが抜けるとパカッと2つに分かれます。
ケースには放熱穴が設けられています。

アンプは1ボードに収まっており、リード部品面には薄型の2連ボリュームが1つ、10V/470µFの電解コンデンサが1つ実装されています。
ICと周辺回路は全て表面実装になっており、裏面に実装されています。

ボード名は "JN-2018" 、日付は "2020.06.01" と書かれています。
キャンドゥで購入したのは2021/3/21ですが、基板自体は2020年の夏から製造されたようです。
ダイソー300円vsキャンドゥ550円アンプ表面比較
ダイソー300円スピーカーの基板(ETS-8002AC)と見比べてみると、同じくボリュームと電解コンデンサだけです。
ボリュームも同じようなつまみ固定式の薄型2連ボリュームです。

続いて表面実装部品面を見てみます。
キャンドゥ550円スピーカーアンプ基板MIX20018Aアンプ面
左右独立でBTLタイプの8ピンICアンプが載っています。
電源ランプ用LEDと思われる端子 "D+, D-" と抵抗 ”R7” が用意されていますが、部品は載っていません。

ICの型番 MIX2018A を検索してみると、以下のページで概要が紹介されており、pdfデータシートもダウンロードできます。
D級/F級の2つの動作モードを選択できるフィルタレスのスイッチングアンプ(デジタルアンプ)で、最大5WのICです。
2Ω負荷にも対応しており、自作アンプのパーツとして使えそうです。

「F級」アンプは初めて見ましたが、高周波増幅回路の一種で、出力に設けたフィルタ回路で高調波を調整することで効率を良くする高周波増幅回路の効率を良くする技術のようです。
次の文献の「10-3-4 スイッチングモード増幅器」にD級・F級について簡単な解説が掲載されています。
しかし、改造してF級に切り替えてみるとAB級のような波形になっており、MIX2018AにおけるF級とは何を意味しているのかよくわかりません。

アンプICは2種類存在?

アンプICですが、ネットの情報によるとピンコンパチブルの別のIC "HAA2018" 搭載モデルも存在するようです。
HAA2018はD級/AB級の切り替えになっており、HAA2018モデルでもD級動作と鳴っているようです。
HAA2018のデータシートには、詳細な情報が掲載されており、ゲインの計算式、周波数特性の計算式、歪率のグラフまで掲載されています。
MIX2018Aに当たるかHAA2018に当たるかは完全に運しだいですが、いろいろと改造を楽しむ場合HAA2018に当たった方がラッキーと思われます。

部品面もダイソー300円スピーカーの基板(ETS-8002AC)と見比べてみます。
ダイソー300円vsキャンドゥ550円アンプ部品面比較
どちらも8PINのBTLアンプですが、ダイソー300円はアナログアンプでしたから、スイッチングアンプ(デジタルアンプ)を搭載するキャンドゥの方が効率が良く鳴っています。
実際爆音で鳴らしてみると、ダイソーはホカホカしてきますが、キャンドゥは発熱が少ないです。

また、どちらの基板も実装されていないLEDランプ用パターンがあるというのが面白いです。

回路図

基板をトレースして回路図を起こしてみました。
コンデンサは値が書かれていませんから、容量は不明です。
ダイソー300円USBミニスピーカー内部アンプ基板トレース回路図&C測定値
まずアンプの動作モードがD級なのかF級なのか気になりますが、モード切替の3番ピンはHighになっています。
データシートを見ると3番ピンがHighの場合はD級ですから、 キャンドゥのスピーカーはD級アンプモード で動作していると分かります。

GNDは小信号GNDと大電流GNDに分かれており、両者は抵抗 "R8" で接続されています。
USBケーブルとイヤホンプラグを同じパソコンに繋ぐとグランドループができますから、ノイズが乗らないように対策しているものと思われます。

アンプIC周辺の回路構成については、データシート通りの回路です。
ボリューム手前に抵抗分圧回路によるアッテネータが設けられており、使いやすいゲインに調整しているようです。
ダイソー300円スピーカーに使われてた8002アンプはOPアンプ型のアンプであり、外部にNFB回路が出ていたため簡単にゲインや周波数特性を改造して遊ぶことができました。
一方、キャンドゥの回路はNFB回路が内部に入っており、周波数特性をいじりたい場合は外付けのイコライザ回路を設ける方法を取るしかありません。
改造の自由度としては、一般的な固定NFBのオーディオアンプIC相当です。

MIX8012Aの特徴として、3番ピンをGNDに落とすとF級モードになりますから、切り替えスイッチを付ける改造は真っ先にやってみたい改造の一つです。

波形の観察

MIX2018AはフィルタレスD級アンプです。
フィルタレスD級アンプICを触るのは初めてであり、どのような波形が出ているのか興味があります。
D級動作時の波形
まずは1kHzのサイン波を鳴らし、スピーカー端子の波形を2現象オシロで見てみました。
見事にPWM波形のままです。

+側・-側で片方のスイッチングタイミングを固定し、もう片方のスイッチングタイミングを変調する動作になっています。

スイッチング周波数は約590kHzです。
MIX2018Aのデータシートにスイッチング周波数は書かれていませんでしたが、IC違いのCan☆Doスピーカーに使われているHAA2018のデータシートには600kHzと記載がありました。
どちらも似たような周波数になっているようです。
ちなみに、AMラジオの周波数帯と被っているため当然といえば当然なのですが、AMラジオを600kHz付近に合わせて近づけるとラジオにノイズが入ります。
D級動作時のスピーカー波形
次にSP端子間の波形、つまりスピーカーに印加される波形を見てみました。
オシロが演算機能付きでなく、音声信号を入れるとプローブのケーブルが悪影響してアンプが発振気味になりうまくトリガがかからないため、無信号で観察しました。

先ほど見た2つの波形の差分がスピーカーに印加される形になり、ユニポーラPWM波形となっています。

アンプ部を分離して任意のスピーカーを駆動する単品アンプとして使う場合、フィルタを入れてあげるか、5、改造2 動作モード変更の改造をしてF級に切り替える改造をして使用する方が良いと思われます。
特に作品に組み込む等で平行線ではなくバラ線でスピーカーを接続する場合、配線の這いまわし次第で配線がアンテナとして作用し盛大にノイズをまき散らしてしまいます。
実際、測定のためにバラのミノムシクリップコードを基板のスピーカー出力端子へ接続した際、AMラジオはもちろん、FMラジオにもノイズが入りました。

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3、アンプ周波数特性

本章では、アンプ回路の周波数特性を調べ、素子を追加してカスタマイズします。

内蔵アンプの回路には、入力部にカップリングコンデンサ C1/C2 が設けられています。
こちらのコンデンサはアンプの入力インピーダンス及びゲイン調整抵抗 R5/R6 との間でハイパスフィルタを形成します。
素子の値が分かればハイパスフィルタのカットオフ周波数を計算できますが、コンデンサ・IC内部の入力インピーダンスともに値が分かりません。
HAA2018バージョンならばデータシートにはアンプICの入力インピーダンスが5kΩと書かれていますが、私が入手したMIX2018AはアンプICの入力インピーダンスがデータシートに書かれていません。
また、ダイソー300円スピーカーと違いOPアンプタイプのICではないため、理想OPアンプでの計算式も使えません。
そこで、実測することにしました。

パソコンを用いた周波数特性測定

周波数特性の測定といっても、オシロと発振器で手作業で測定するのは手間が掛かりすぎるため、フリーソフトWaveSpectraとWaveGeneを用いて自動測定しました。
周波数特性測定回路 手持ちのUSBオーディオIF UA-1G はバランス入力(XLR端子)に対応していないため、BTLタイプの MIX2018A を測定するためにはアンバランス(RCA端子)に変換する必要があります。
バランス・アンバランス変換はトランスを使用する方法と差動増幅回路を使用する方法がありますが、音声用トランスST-32を接続したところ激しく発振してしまったため、ノイズは増えてしまいますがOPアンプで差動増幅回路を組みました。

また MIX2018A はフィルタレスD級アンプであり、PWM波形がそのまま出てきます。
そこでRC積分回路でアナログ波形に戻してから差動増幅回路に入力する構成としました。
差動増幅部はオーディオ機器にも使われるOPアンプ NJM4558 で組み、電源ノイズが載らないよう電池駆動としました。

キャンドゥスピーカーもACアダプタのノイズが載らないようモバイルバッテリー駆動としましたが、アンプ基板だけでは消費電流が少なすぎてモバイルバッテリーのオートパワーオフ機能により電源が切れていまいます。
そこで、モバイルバッテリーにダミー負荷を接続して電流を流し、モバイルバッテリーがオートパワーオフしないようしました。
なお、ダミー抵抗の値はジャンク箱にあったパワー抵抗から100mA以上流れる抵抗値を適当に選んだだけで、特に考えて選択したわけではありません。
周波数特性測定風景
周波数特性測定の様子です。
アンプ基板の信号はスピーカー端子に短い鈴メッキ線をはんだ付けし、ミノムシクリップで取出しました。
スピーカーの配線は取り外したりダミー抵抗に置き換えにたりはせず、スピーカー負荷状態での周波数特性を測定しました。
入力信号はアンプ基板付属のケーブルから入力し、アンプ基板本体のボリュームで差動増幅回路の1000pF部の電圧が1Vp-p @ 1kHz程度になるように調整して測定しました。
(当然スピーカーから電子音が鳴りますが、かなりうるさかったです(^^;)

パソコン側の設定はWaveSpectra公式マニュアルを参考に以下としました。
・サンプリング:16bit 48kHz
・FFT数:65536
・FFT窓関数:なし
・グラフレンジ:±10dB, Norm1kHz(1kHz正規化)
周波数特性測定 キャンドゥvsダイソー
MI2018A基板での周波数特性測定結果です。
ダイソー300円スピーカーも同じ回路で測定して比較してみました。
ダイソーについては購入時期によってゲインも周波数特性もばらばらの複数モデルのアンプ基板が存在していますから、手元の3代目? ETS-8002AC 基板の参考値です。

どちらも入力カップリングコンデンサが小さすぎ、ハイパスフィルタ特性を示しています。
それでもキャンドゥの方がダイソーより低域が伸びていることが分かりました。
50Hzで3dB程の差が出ています。
キャンドゥのアンプが-3dBになるポイントは50Hzであり、ラジオをBGM的に聴くならば無改造でも良いですが、Hi-Fiオーディオ用としてはちょっと物足りません。

4、改造1 低域改善

周波数特性を確認したところ、入力カップリングコンデンサの容量が小さすぎてハイパスフィルタになっていましたのでこちらを改善し、さらにバスブーストを追加して低域改善を試みます。

入力カップリングコンデンサ増量

改造といっても、以前ダイソーのスピーカーで実施した方法と同じ、入力カップリングコンデンサ C1/C2 にコンデンサを並列に接続するだけです。
カップリングコンデンサ増量
チップ部品を持っていないため、ジャンク基板から取り外した足が短いリード部品をはんだ付けして実験しました。
実験なので片チャンネルだけです。

C1/C2部のプリントパターンは大変細いため、コンデンサの足をボリュームのピンにはんだ付けし、プリントパターンにコンデンサの重量がかからないようにしました。
周波数特性測定 カップリングコンデンサ増量
E6系列のコンデンサをいくつか試してみました。
474(0.47µF)まで増やすと20Hzでの減衰が-1dB以内に収まりました。
無駄に増量しても電源ON時の充電に時間がかかり動作が不安定になる恐れがあるため、474(0.47µF)を上限とするのがよさそうです。
聴いた感じでは、コンデンサを追加すると確かに低音が出てくるようにはなるものの、ダイソー300円スピーカーのスピーカーの時のような圧倒的な差は感じられませんでした。
アンプ無改造状態でダイソーより低域が伸びていること、マグネットのサイズがダイソーの方が大きいことが関係していると思われます。

バスブースト追加

さらなる低域の改善を目指し、バスブースト回路を追加してみます。
ダイソーの時と違いフィードバック回路がIC内に入ってしまっているため、NF型のバスブースト回路は組めません。
そこで、パッシブ型のCR型バスブースト回路を追加します。

キャンドゥのアンプの場合、ボリュームの前に入っている分圧回路を活用することで簡単にRCバスブースト回路を追加できます。

回路例と周波数特性を示します。
バスブースト
まずはシンプルなバスブースト回路です。
追加素子の抵抗・コンデンサを調整しお好みの音質に合わせてお使いください。

仕組みは、抵抗分圧回路とコンデンサの周波数特性を利用しただけの簡単な回路です。
回路図の定数では、中高域(2kHz~)に対し50Hz付近で+8dB程度持ち上がりました。

RC直列回路をR3/R4に並列にすることにより、追加した1kΩは高域に対してのみ働きます。
VR以降のインピーダンスを無視すれば、低音のゲインはR1/R2とR3/R4の分圧回路で決まります。
3.3kΩ同士の分圧回路ですから、低域のゲインは0.5倍で-6dBです。
一方、高域に対してはR3/R4と追加した1kΩが並列に作用し3.3kΩと0.78kΩの分圧回路となります。
よって高域のゲインは0.19倍で-14dBとなります。
言い換えれば、無改造時は全体域で-6dBだったものを、高域だけ-14dBになるよう改造したということになります。
以上より低域と高域のゲイン差分を計算するとバスブースト量は+8dBであり、実測した値と同じになっています。

以上のように実際は無改造に対し中高域のゲインが下がるのですが、グラフは比較しやすくするため 0dB @ 1kHz に正規化して描いています。
例えば、2kHz辺りで0.2dB程度の差が出ていますが、これは 0dB @ 1kHz に自動で合わせて描いているためで、実際の差が0.2dBというわけではありません。

CR型バスブーストは中高域の音量を下げることで相対的に低域が大きく聞こえるようにする回路です。
今回の回路例では中高域を無改造に対し8dB下げていますから、中域の音量を無改造と同じにして聴くには、無改造時よりもボリュームを+8dB上げる必要があります。
ここで入力機器(ヘッドホン出力等)の最大出力レベルが小さいと、十分な音量感が得られなくなる可能性があります。
音量が足らない場合、まずはR3/R4を撤去し、追加抵抗を1kΩから3.3kΩに変更してあげれば、中高域のゲインは維持できます。
しかし、ブースト量は+6dBしか得られなくなります。
音量もブースト量もあきらめたくない場合、前段にアンプを設けてあげれば減衰を補いつつバッファとしても機能します。
CR型バスブースト回路は接続する回路の出力インピーダンスの影響を受けますから、本来は前段にバッファを設けた方が好ましいです。
ただし、「前段にアンプを置くくらいならば、追加アンプを使ってNF型バスブースト回路を組めばよい」という話にもなってしまいます・・・(^^;

バスブーストの弊害と解決法

バスブーストをすると起こる弊害はいくつかありますが、個人的に気になった2点と解決法例をご紹介します。

1. 音が曇る
⇒ 高域もブーストし「ドンシャリ」にする


バスブースト量を増やすと、ボーカルが曇ってしまったり、男性アナウンサーの声が「ボーボー・モゴモゴ」なって聞き取りづらくなったりします。
かといってブースト量を減らすと、今度は低音の音量感が足りません。
この場合、高域もブーストしてドンシャリ系サウンドに仕上げると、子音の高音成分がブーストされて声が聞き取りやすくなります。
ドンシャリ
バスブーストではR3/R4にRC直列回路を追加しましたが、ハイブーストではR1/R2にRC直列回路を追加します。
両方同時に使うことで、中音に対して低音も高音も持ち上がった特性を作ることができます。
カットオフ周波数が近いとバスブースト・ハイブーストが相互に影響し合うため、トライアンドエラーで好みの音に調整します。
オーディオアンプのトーンコントロール回路に倣い、1kHz付近を上下させない(バスブースト・ハイブーストが相互影響しない)ような特性に仕上げると、オーディオアンプのBASS・TREBLEを上げた時のような音に近くなります。

キャンドゥのスピーカーは口径が小さく高域が鳴りやすいユニットですから、高域を持ち上げすぎると今度はキンキンした音になってしまいます。
個人的にはハイブースト量は+6dB程度までの範囲に収めておくのがよさそうです。

ハイブーストは体調や聴く曲のジャンルによっても合う・合わないが出てきますから、ブースト量可変のCR型トーンコントロール回路にした方が良いかもしれません。

おススメ
2. 重低音域がまともな音にならず激しく歪む
⇒ 重低音域はブーストしない「マイルドバスブースト」


キャンドゥのスピーカーは振動板もエンクロージャも小さく、カーオーディオのようなお腹にズンドコ来る重低音は期待できません。
密閉型であるキャンドゥスピーカーはダイソースピーカーみたいにバスレフポートから空気が抜けていくこともないため、バスブーストし過ぎると箱がボコボコ鳴るだけですし、音量を上げればアンプが歪んで音が割れてしまいます。
この場合、スピーカーが小さすぎてまともに再生できない重低音域は無駄にブーストせず、聴感上低音が分厚くなるように80Hz付近をブーストしてあげるという特性に仕上げます。
ここでは 「マイルドバスブースト」 と呼ぶことにします。
マイルドバスブースト
回路としては、入力カップリングコンデンサを増量せずにバスブースト回路を追加します。
すると、C1/C2によるハイパスフィルタとバスブーストの特性が重なり合い、バンドパスフィルタ特性を示します。
前述のバスブースト・無改造とグラフを比較してみると、30Hz付近では無改造時のハイパスフィルタと近い傾き、200Hz付近ではバスブーストと近い傾きとなっており、両者の特徴が重ね合わされていることがよくわかります。

回路図の定数では、80Hz付近をピークに中高域(2kHz~)に対し+6db程度ブーストされる特性にとなりました。
80Hz付近ならばキャンドゥのスピーカーで再生できますから、「低音のボリューム感は増やしつつ重低音を歪ませない」特性を得られます。

出てくる音は、重低音域までブーストするバスブーストよりもスッキリした音になります。
悪い言い方をすれば「安物のラジカセのバスブーストスイッチを入れた時のような音」ですが、スピーカー口径が小さいキャンドゥのスピーカーにとっては相性の良い周波数特性となるようです。
エンクロージャ無改造で使う予定の方におススメの回路です。

5、改造2 動作モード変更

MIX2018A は3番ピンをローにするとF級に切り替えることができます。
※HAA2018搭載モデルではAB級に切り替わります。
”F級”とはどのような波形なのか、切替えて確認してみます。
F級への切替
MIX2018A の基板では、3番ピンはプリントパターンでVccへはんだ付けされています。
※HAA2018 でははんだ付けされていないようです。
3番ピンをはんだ吸い取り線で浮かせ、スズメッキ戦でGNDへ接続するのですが、精密ドライバーでピンを持ち上げようとしたらポロっと取れてしまいました。
やすりで削って無理やり結線しましたが、折れやすいのでリューターでピンを切って削ってからはんだを取った方がよさそうです。
D級・F級動作の比較
1kHzの信号を入れD級動作と波形を見比べてみます。
F級モードはまるでAB級のような波形です。
1kHzの波形が Vcc/2 を中点として逆位相で現れており、一般的なBTLアンプと同じです。
ネット検索してみても、高周波増幅回路としての"F級"は出てきますが、波形がまるで異なり、"MIX2018Aにおける"F級とは何者なのか分かりませんでした。
HAA2018 との互換性を考えると、もしかしたらMIX2018Aが本来の意味と異なる意味で"F級"という名前を使っているだけかもしれません。
ICのメーカー Mixinno のラインナップを見ると、他にもF級アンプがいくつかあるようです。
データシートには「FMラジオへのノイズが少ない」書かれていますが、動作原理は書かれていませんでした。
音の違いについてですが、片chだけをF級にして音を聞き比べてみましたが、差は分かりませんでした。
少なくとも高周波ノイズが大幅に減ることは波形を見て明らかなので、F級に改造して使った方が良いと思われます。

参考文献・サイト

1 周期スイープを用いた周波数特性の測定について
フリーソフトWaveSpectra WaveGene を用いて周波数特性を測定する、ソフト制作者様公式のマニュアルです。
https://efu.jp.net/soft/wg/fresp/meas_fresp.html
2 Shanghai Mixinno Microelectronic, Inc.
MIX2018A メーカーサイトです。
http://www.mixinno.com/