ソフトスタート付き無段階PWMファンコン

CPUクーラーと自作PWMファンコントーラによる卓上扇風機
世の中には数多くのDCファンモーターがあります。
パソコンのCPUクーラーなどの機器組み込み用のブラシレスDCファンから、自動車用のラジエータ/コンデンサ用電動ファンまで、様々なサイズ・パワーの製品があります。

解体品からジャンクとして放出されるそれらのDCファンモーターを入手し、電子機器の冷却はもちろん、扇風機や換気扇として使おうとする際、物によっては爆音過ぎたり寒すぎたりで風量調整が欲しくなります。

そこで様々なタイプのファンに使用可能な、PWM式ファンモータ用スピードコントロール回路を自作してみました。

<ご注意>
・このサイトを参考に改造を行い、火災、感電、事故等がおきましても筆者は一切責任を取ることはできません。必ず自己責任で実施してください。

・ファンモーターでの使用を想定したフィードフォワード方式のスピードコントローラーです。電動工具のような状況に応じて負荷が激しく変化するモーターにはご利用いただけません。

1、回路の特徴

製作する回路は、主に3つの特徴を備えています。

・Duty0~100%無段階可変
・3種類のファンに対応
・ソフトスタート機能

Duty0~100%無段階可変

オペアンプを使用したフルアナログ回路で構成しています。
速度指令がDC電圧の三角波比較PWM方式のため、Dutyは無段階に設定可能です。
私は機械式のボリュームを組み合わせ、無段階の手動変速としています。
もちろん工夫次第で 弱・中・強 切換式にしたり温度センサと組み合わせたりすることも可能です。

また、マイコンや専用ICは一切していないため、開発環境や高価なパーツは必要ありません。

3種類のファンに対応

下記3つのファンに対応しており、さまざまなタイプのファンをコントロール可能です。

・ブラシ付きDCモーター(普通の直流モーター)
・ブラシレスDCファン
・PWM可変速ブラシレスDCファン

ブラシ付きDCモーター(普通の直流モーター)

ブラシにより整流し、固定された磁石の間でコイルが回転する普通の直流モーターです。
ブラシ付きDCモーター
例えばクルマのラジエーター/コンデンサ冷却用の電動ファンがあります。
夏場の渋滞や駐車場で「ブォーン」と聴こえてくるヤツです。
ブラシ付きDCモーターが使用されています。

トヨタのミニバン系純正品の解体放出品をヤフオクで入手し、ウインドファン(窓用換気扇)として使用しています。
窓枠にセットしやすいシュラウド一体型の四角い枠に固定されているファンをヤフオクで探しました。
2発同時に定格電圧で回そうものなら携帯が鳴っていても気づかないほどの爆音のため、ファンコントローラが欲しくなります。

ブラシレスDCファン/PWM可変速ブラシレスDCファン

コイルを固定し磁石が回転するようにし、ブラシを不要にしたモーターです。電子回路により電流を制御し、磁石を回転させます。
「DCモーター」という名前が付いていますが、構造としてはAC同期モーターをインバーターで回している形になります。
ブラシレスDCモーター
長寿命が要求される電子機器の組み込み用ファン達はブラシレスDCモーターが使われています。

大型なものはワークステーション(めちゃくちゃハイスペックなパソコン)用のCPUクーラーで、PWM速度制御に対応しています。
「電源・GND・回転センサ・回転制御」の4線ハイエンドモデルです。
1.4Aと結構名ハイパワーで、卓上扇風機として使用できます

中型の物はパソコンのケーファンで「電源・GND・回転センサ」の3線、小型のものはプロジェクタから取り出したファンで最もシンプルな「電源・GND」の2線です。

ソフトスタート機能

突入電流が大きなブラシ付きDCモーターも安心

ソフトスタートとは、電源オンで即設定値を出力せず、徐々に出力を上げていく制御です。
わかり易く例えますと通常は急加速、ソフトスタートはゆっくり加速です。
ソフトスタートのタイミングチャート
平地で自転車に乗る場合を考えます。発進時はペダルを強く漕いで加速しますが、巡航時は発進時ほど強く漕がなくても速度を維持できます。
これは、発進時は「止まっている自転車を目標速度まで加速する為のエネルギー」を投入する必要がありますが、巡航時は「風や転がり抵抗による抵抗」だけを補ってあげれば速度を維持することができる為です。
また発進時に、立ち漕ぎで全力で急発進する場合と、座ってゆっくり加速していく場合どちらがキツイかは言うまでもないでしょう。

モーターも同じで、特にブラシ付きDCモーターは停止した状態から急に定格電圧をかけてスタートさせると非常に大きなピーク電流が流れます。
一方、電圧を徐々に上げてゆっくり加速していけば、ピーク電流を抑えることができます。

例えばクルマのラジエーターファンのような大電流DCモーターを家庭で回そうとした場合、大容量の12V電源が必要になりますが、トランスでは重すぎて運ぶのも大変になります。そこで、スイッチングタイプのACアダプタや12Vの電源装置を使うことになると思います。
ところが、始動時に回転時の倍以上の大電流が流れる為、電源装置の定格を超えて保護回路が作動し、電源装置の機種によっては保護回路により電源装置がシャットダウンしてしまい、モーターを起動することができないことがあります。

突入電流に耐える大容量のスイッチング電源を用意すれば対処可能ですが、大型・高価になってしまいます。
そこでソフトスタート機能で始動時のピーク電流を電源装置の定格内に抑えてあげることにより、定常運転時に必要な電源装置を用意すれば済み、電源装置の余計なコストがからず、またモーターや各部パーツへのストレスも少なくて済みます
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2、回路図

製作したファンモータースピードコントール回路の回路を示します。
括弧書きの部品は、例として私が使用した手持ちの部品を表します。
太い線は、大電流ルートを意味しており、特にラジエーターファンなどの大容量モーターを使用する際にはできるだけ太く短く配線します。 オペアンプによるPWMファンモータコントーラ回路

オペアンプ

4回路入りオペアンプTL084を使用し、2回路で三角波発振、1回路をレールスプリッタ、1回路をコンパレータとして使用しています。
TL081×4個、TL082×2個でも製作可能です。
TL08x以外のオペアンプを使用する場合、回路定数の見直しが必要、またはそもそもスルーレートが足らなくてうまく作動しないこともあります。(例えばLM324ではきれいな三角波が出ませんでした。)

電源IC

消費電流の大きなモーターを使用する際に電圧変動が発生しても動作への影響を低減するため、制御回路部は定電圧電源で動作させます。
定電圧電源ICは三端子レギュレータ "7809" シリーズや、各種シリーズレギュレータICが使用可能です。
私は手持ちに2000年代のテレビ基板から取ったSHARPの低ドロップアウト電源IC "PQ09RD11" があったためそちらを使用しています。
ここで使用する電源ICの最大入力電圧が回路の最大許容電圧となります。
24Vファンを使用する場合は、電源ICの許容入力電圧にご注意ください。

スイッチング素子

パワーMOSFETによるスイッチング回路を使用しています。
ブラシ付きDCモーターでも回路を使用できるようにするため、還流ダイオードも付けています。
またスイッチング速度を上げて少しでも損失を減らため、ゲート容量の充放電時間短縮するようプッシュプルエミッタホロワによる低インピーダンスのゲートドライドライバによりMOSFETを駆動しています。

ラジエーターファンなどの大容量モーターを使用する際には、MOSFETとダイオードの選定に注意が必要です。
数百mAの冷却ファン程度でしたら適当なジャンク部品で動作しますが、ラジエーターファンに役不足な部品を使うと普通に発煙します!

まずMOSFETはモーター消費電流に対して許容電流が十分余裕があり、できるだけON抵抗が小さい電源スイッチング用途の製品を選定、必要に応じヒートシンクを取り付けます。ブラシ付きモーターの場合、連続許容電流はDuty100%で動作させた時のピーク電流の2倍以上は欲しいところです。

ダイオードもモータの消費電流に対して十分余裕のある品種を選定します。パワー回路用の逆回復時間の小さいファストリカバリダイオードがあれば理想ですが、なかなか入手できないですね・・・。
ダイオードにはブラシ付きDCモーターを使用する場合にMOSFETがOFFになった際、モーター内のコイルの逆起電力による電流が流れます。ダイオードに流れる電流はMOSFETがOFFになる直前にコイルに流れていた電流が最大となります。ここでの電流がダイオードの定格を超えないようにします。
またダイオードは 順電圧 × 平均電流 の電力を消費し発熱します。大容量モーターではダイオードに流れる電流も大きくなり発熱が無視できなくなります。TO-220パッケージに収まったダイオードを選定すると、ヒートシンクに取り付けやすいと思われます。

さらに、モーターや配線の状態によってはサージ電圧が発生することがありますので、オシロスコープで確認し定格をオーバーしていないか確認し、必要に応じて素子のパワーアップやスナバ回路の挿入などの対策をします。

PWM周波数

PWM周波数は、WPMコントロール機能付きファンに合わせ、約25kHzとしています。
PWM入力による可変速ファンの仕様書によると、TTLレベル・オープンコレクタ・オープンドレインで25kHzのPWM信号を入力することで制御可能とのことです。
本回路では、パワー回路駆動用のトランジスタとオープンコレクタ出力トランジスタを共用にし、スイッチでPWM入力有り無しどちらのファンでも使用できるようにしています。
なおPWM入力なしのファンを使用する予定が無ければ、パワー回路とスイッチは不要となります。

ファンの結線

本回路を使用する際のファン結線図を示します。
自作ファンモータコントーラの結線図
通常のファンを使用する場合は、本回路に直流電源を入力し、ファンはファン出力端子へ結線します。
ブラシ付きの大型ファンでは電源の配線及びファンに10Aを越えるような大電流が流れますので、太いケーブルを使用します。

PWM可変速ファンを使用する場合は、ファンのPWM端子をオープンコレクタ端子へ接続します。(ファン内部でプルアップ)
可変速ファン使用時は、スピードコントール回路にはファンに速度指示信号としてPWM信号を送るだけであり、数十mAの制御用の電流しか流れないため、細いケーブルで十分です。

3、ソフトスタートについて

本回路の特徴であるソフトスタートについて説明します。

三角波比較PWM

三角波比較PWMのタイミングチャート
まず本回路で採用している三角波比較方式のPWMについて軽くおさらいしておきます。

この方式はアナログ式であり、直流電圧Vrefで任意のデューティーに無段階に設定できる方式です。

周波数・振幅が一定の三角波と、可変の直流電圧Vrefをコンパレータで比較することで任意のDutyのPWMを作ります。

三角波ではなくコノギリ波を使うバージョンもありますが原理は同じです。

図の例では、コンパレータは以下のように動作します。
・三角波 < Vref : High
・三角波 > Vref : Low

これにより、Vrefを電圧を高くしていくとコンパレータ出力がHighとなる時間が長くなる、つまりDutyが大きくなります。
さらにVrefを上昇させていき三角波の最大電圧よりVrefが高くなると、コンパレータは常時High、つまりDuty100%となります。
Vrefを下げていく場合は逆の動作となり、やがて三角波の最小電圧を下回るとDutyは0%となります。

三角波比較PWMについてさらに詳しく知りたい方や、タイマー式など別の方式のPWMについて興味のある方は、検索すると資料が沢山出てきますので調べてみてください。

ソフトスタートの実現

三角波比較PWMはアナログ電圧入力で無段階にDutyを設定できるため、Vrefを0~目標値まで徐々に上げていくことにより簡単にソフトスタートを実現できます。
本回路では、RC直列回路の過渡現象を用いて電源ON直後にVrefをゆっくり上昇させています。
ファンコントロールのソフトスタートテスト回路
波形撮影のためファンコントール回路の制御回路部分だけを切り出した回路です。

100μFの電解コンデンサがソフトスタート用のコンデンサで、電源SWをONにするとこのコンデンサが徐々に充電されることでvrefが徐々に上昇します。
放電Dは電源SWをOFFにした際、オペアンプの電源遮断された後にVrefが残らないよう、速やかにコンデンサを放電するためのものです。

最後にこの回路で撮影した実際の波形をご覧ください。
※撮影のため、私が所有している昭和時代のデジタルストレージオシロ (KENWOOD CS-8010)でも波形が見えるよう、三角波周波数を非常に低い約12Hzとしています。

Vrefが徐々に増加する様子

電源ON直後のVref波形です。

Vref上昇の様子
まず三角波発振回路は、電源ONと同時に動作開始します。単電源回路で動作させていますので、三角波V_oscは Vcc/2 = 4.5V オフセットしています。
次にV_refは、ソフトスタートコンデンサがない場合瞬時に立ち上がりますが、ソフトスタートコンデンサがある場合は狙い通り緩やかに立ち上がっている様子が確認できます。

Dutyが増加する様子

ソフトスタート中のPWMのDutyを確認します。

Duty増加の様子
ソフトスタートコンデンサがない場合、電源ON後に即V_refが立ち上がる為、目標値Dutyでの一定出力となります。
モーターに突然高い電圧を印加することに相当し、大容量のブラシ付きDCモーターに使用した場合モーターは急加速し大きな突入電流が流れます。
次にソフトスタートコンデンサがある場合、V_refが徐々に上場することにより、出力Dutyも低Dutyから高Dutyへ徐々に移行している様子が確認できます。
こちらはモーター印加電圧を徐々に上げる動作に相当し、モーターはゆっくり加速し突入電流を抑えることができます。

放電Dの効果

ソフトスタートコンデンサに取り付けてあるダイオード(放電用D)の効果確認です。

放電Dの効果
放電ダイオードがない場合は電源OFF後V_refはだらだら放電し4秒経過してもV_refが0.5V程度残っています。
放電Dを設けることにより速やかに放電され、約1.5秒で0.5Vを下回ります。

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参考サイト

1 取扱説明書検索 - シリーズから検索する|ダウンロード |オリエンタルモーター株式会社
25kHzのPWM制御端子付DCファンモーターに関する技術資料です。
下記リンク中の 『DCプロペラファン MDシリーズ Vタイプ(可変速)』 からpdfでダウンロードできます。 https://www.orientalmotor.co.jp/download/manual/series_search.action?brandCheckList=FN&__multiselect_brandCheckList=&seriesName=MJ00&gengoId=1
2 三角波発振器
オペアンプを用いた三角波発振回路の資料です。この記事で使用されているデュアルオペアンプTL082のクアッド版がTL084です。
http://www.piclist.com/images/www/hobby_elec/ckt16.htm
3 ブラシレスモーターの構造と動作原理|技術資料 |オリエンタルモーター株式会社
ブラシレスモーターの構造の資料です。
https://www.orientalmotor.co.jp/tech/reference/brushless01/
4 電源IC 選択のヒント集 - LDO のドロップアウト電圧とは
リニア電源ICのドロップアウト電圧についての資料です。
http://www.tij.co.jp/analog/jp/docs/analogsplash.tsp?contentId=72378
5 DCモータの可変速制御法
還流ダイオードとトランジスタによるブラシ付きDCモーターのPWM制御に関する資料です。
http://www.picfun.com/motor04.html