小出力アンプでサブウーファーを楽しむために
~コンプレッサ付LPF~

はじめに

私は「ボーボー」というベース楽器の低音がとにかく好き。気づくとベースラインを口ずさんでいることがあるほど。思いっきりサブウーファーに酔いしれたい。
しかし、ちょっと音量を上げるとすぐにバスドラムが歪み始める。しかもDQNカーオーディオのように「ボンボン」うるさくて頭痛がする。けれども音量を下げるとベースが全然物足りない。
バスドラムのない曲ならウーファーアンプのパワーは30Wもあれば十分なのに。
ボイスレコーダーのようなオートゲインコントロールがかけられれば良いことは思いつくが、回路が見つからない。余計なIC通して音質落とすの勘弁。
そんなある日、ウィーンブリッジ発振回路にくっついているJFETによる振幅制限回路がふと頭をよぎった。これだ!

本ページを参考に回路を製作し、事故やスピーカの破壊が発生しましても筆者は一切責任を持ちません。必ず自己責任でお願いいたします。
また仮想グランドを使う関係で、グランドパターンの引き回しをミスると低周波発振器に化けますので、オシロスコープをお持ちでない方はご注意ください。

ブロック図および回路図

ブロック図 回路図

あなたのお好みの低音は?

本回路の使用(調整?)方法のお話です。調整個所は大きく分けて音量系・フィルタ系・コンプレッサ系の3つに分けられます。

音量系

入力音量
回路に入力する信号の大きさを設定するつまみです。入力につなぐ機器の出力電圧に応じて、音が歪まない範囲で設定します。
低すぎるとコンプレッサーがほとんど働かず、高すぎるとコンプレッサーが激しく働き聴きづらい音になってしまいます。
出力音量
ウーファーアンプのボリュームとして働きます。使用頻度が最も高いつまみです。
(ウーファーアンプに音量調整機能がある場合は逆に全く使わないため、半固定にしておく、もしくは回路図から取り去ります。)
音量系の項目は、音量の調整以外にもコンプレッサーを積極的に働かせるか否かの調整にも使えます。
例えば、「夜だからウーファーのダイナミックレンジを狭めるために積極的に使いたい」場合は、入力音量は大きめにしておき、コンプレッサーがかかった音を出力音量で絞って聴くという設定になります。逆に「爆音で聴きたいけど、バスドラムが歪む」という場合は、出力音量をMAXにしておき入力音量でウーファーの音量を調整します。

フィルタ系

カットオフ
その名の通り、本回路の主フィルタである2次バタワースフィルタの遮断周波数を設定します。
低域寄り(抵抗を大きくする)に回すと重低音のみが通過してくるようになり相対的に重低音が強く聴こえます。

とにかく重低音を楽しみたい場合、テレビやラジオなどウーファーがモゴモゴ言うと台詞が聞き取りづらくなるソースの場合、組み合わせるステレオスピーカーからある程度低音が出る場合などは低域寄りに回します。
逆にロック音楽等のスピード感のあるベースを楽しみたい場合、組み合わせるステレオスピーカー小さくて低音が全くでない場合などは高域寄りにの調整します。
小口径SP時は調整
重低音が苦手な10cm程度の小口径ウーファーを使用する場合に、高めの周波数のゲインを下げて相対的に重低音をブーストするコンデンサです。0.1μF~0.47μF程度でウーファーの最低共振周波数付近を持ち上げるよう調整します。容量が大きいほどブースト対象周波数が低くなりますが、コンプレッサは「聴こえる音量」ではなく「電圧」をモニタして動作するため、用いるウーファーや曲によっては不自然な聴こえ方になります。
アンプのパワーがない場合や、音が不自然になる場合、ウーファーの口径が大きい場合は0.047μF程度とします。(取り外すと発振する場合があります)

コンプレッサ系

レシオ
AGCのフィードバック量を調整するつまみで、音量が上がっていった際にコンプレッサが緩やかに動作するのか強力に動作するのかを決めるます。
絞りきるとコンプレッサを無効にできます。逆に上げすぎるとコンプレッサというよりリミッター的な動作となり、曲によっては音が歪みます。
スレッショルド
コンプレッサが効き始める電圧(音量)の調整です。
PA用のコンプではスレッショルドとレシオは独立していますが、この回路では回路を簡単にするためレシオに依存します。
私はスレッショルドを中間あたりにしてレシオで効き具合を調整してから、ウーファーアンプが歪まないぎりぎりまでスレッショルドを上げていくという調整をしています。
アタック
コンプレッサが動作するスピードの調整です。この抵抗を小さくすると大音量入力時に急いで音量を絞り、逆に大きくするとゆっくり絞ります。
遅すぎるとウーファーアンプの歪み防止回路としての意味がなくなってしまい、速すぎると不自然になります。
リリース
コンプレッサ動作状態から音量が復帰するスピードの調整です。この抵抗を小さくすると大音量終了後に急いで音量を戻し、逆に大きくするとゆっくり戻します。
遅すぎるといつまでも音量が戻らず、早すぎると入力波形の周期より早くコンプレッサが応答して波形が歪みます。歪まないぎりぎりまで小さくするのがお勧めです。
弁当箱に組み立てた回路 本回路はとにかく調整個所が多いという特徴があります。聴くジャンルや組み合わせるスピーカーに合わせてつまみを回す楽しみもありますが、2連を使うところ以外は必要に応じて一部を半固定抵抗器にしてしまうのもアリです。
自分はアタックとリリースは半固定にして写真のように弁当箱に組み立てています。音量は大きめのつまみを取り付け、操作性を向上させています。故障したアンプから部品取りしたため軸が長いタイプで、見た目は悪いですがスレッショルドつまみと重ねられてコンパクトに収まっています。

簡単な解説

LPF部

本回路のフィルタ特性は、トータルで4次(80dB/dec , 24dB/oct)のフィルタになっています。
まず左右の音声をミックスする初段の加算回路のフィードバックループにコンデンサを追加し、1次LPFとしています。入力ゲインは遮断周波数に影響を与えないようフィードバックループでない側の抵抗で調整します。固定ゲインで良い場合は可変抵抗を取り去ります。
次にメインのフィルタであるアクティブフィルタですが、こちらは教科書通りのサレンキー型フィルタになります。オーディオ用途ですのでバタワース特性とし、可変抵抗を用いてカットオフ周波数を可変にしています。
アクティブフィルタの出力はCR回路によるLPFを通し、終段の増幅部へ入力します。

増幅部

CRフィルタを通過した信号は高インピーダンスで受ける必要があるため、正相(非反転)増幅回路を用いています。負帰還回路の抵抗のうち片方をオーム領域で動作するJFETとすることで、AGCを実現しています。
フィードバックループのコンデンサは発振防止用です。せっかくですので、高ゲイン動作時にフィルタを漏れ出したボーカル帯域を増幅しないよう大きめの容量を用いました。
ちなみに、「小口径SP時は調整」することでバスブースト特性が得られ、ウーファーの最低共振周波数付近を持ち上げられます。

コンプレッサ部

出力電圧を全波整流し、JFETを電圧制御可変抵抗として動作させます。まずレシオつまみで調整された出力電圧は、オペアンプによる理想全波整流回路に入ります。整流回路には加算回路部があるため、そこに直流電圧を加算して全波整流波形をDCオフセットさせることでスレッショルド調整を実現しています。
全波整流波がDCオフセット分及びダイオードの順電圧0.7Vを超えると、4.7μFのコンデンサが充電されJFETの抵抗が大きくなり、増幅部のゲインを下げます。充電時定数と放電時定数を決める可変とすることで、アタック・リリースの動作スピードの調整を実現しています。
ちなみに非線形なオーム領域をオーディオで使うため、ゲート・ドレイン間のCR回路で交流フィードバックをかけて特性改善しています。

電源部

ACアダプタの電圧を分圧してVcc/2を仮想グラウンドとするためのレールスプリッタ回路です。使用するICに応じて100Ωの発振防止抵抗を入れます。
コンプレッサ部の4.7μFの充電電流はこのレールスプリッタから供給されるため、十分大きいコンデンサを用いないと発振します。
またコンデンサを大きくするのみならず、実装時は仮想グラウンド、グラウンド、Vccは十分に低インピーダンスで配線しないと、AGC回路が発振して0.1Hz程度の超低周波を出力して最悪スピーカを破壊します。(実体験)