ハイインピーダンスアンプの回路調査

0、はじめに

本記事の調査で得た情報をもとに、汎用部品だけでハイインピーダンスアンプを自作してみました。
暫定版_汎用部品で作る!100V系10W自作ハイインピーダンスアンプ
https://www.hmcircuit.jp/high_imp_audio/high_imp_amp_make.html

ハイインピーダンススピーカー
構内放送設備に使用されているハイインピーダンススピーカー。
スピーカーユニットとマッチングトランスが組み合わされ、入力インピーダンスは数百Ω~数キロΩとなっています
駆動するアンプは、通常のオーディオアンプと異なり、定格出力時の出力電圧が100V(旧式は70V)となる「ハイインピーダンスアンプ」が使用されます。

ハイインピーダンス接続は、アンプとスピーカーを離して設置したり、スピーカーを多数設置したりする場合において、音声信号を高電圧で伝送することによりケーブルに流す電流値を低く抑え、ケーブルの内部インピーダンスによる電圧降下(損失)を小さくするための仕組みで、家庭での使用は想定していません。

そんな業務用アンプではありますが、トランスという調味料が効いた音を楽しむ、小学校の教室にあったようなスピーカーで当時の曲を聴いてノスタルジックに浸るなど、個人で所有して家庭で楽しむこともあり、Youtube動画等も出てきます。
私もハイインピーダンスアンプの音が好きで、数台所有しています。

ただ、トランスを介さず直接スピーカーをドライブするローインピーダンスアンプよりどうしても音質が劣化するため、家庭用オーディオとしての需要はほぼないと思われ、回路を扱った書籍やwebサイトも私が知る限り見かけたことはありません。
そのため、学生時代にバイト先の放送設備が故障し、電気工事士有資格・電気系学科在籍・オーディオマニアだった私が修理する流れになった際には、情報集めに苦労しました。
アンプそのものを修理したわけではありませんが、トラブル解決のためにハイインピーダンスアンプの仕組みを知る必要があり、回路図を検索しましたが全く出てきません。そこで趣味で所有していたアンプを分解して基板をトレースし調査しました。

ハイインピーダンスアンプの自作や修理のために回路を知りたい方に少しでもお役に立てればと思い、webサイトにまとめることにいたしました。

当サイトご利用上のご注意

1-1 SEPP構成の例

それでは早速ハイインピーダンスアンプの内部を調べていきます。
まずは、現行のアナログアンプタイプでも使用されているSEPP (Single Ended Push-Pull) 構成のハイインピーダンスアンプをご紹介します。

National PANA AMP 15

PANAAMP15
題材として、90年代前半まで製造されていたパナアンプ15を分解していきます。
ライン1系統、マイク2系統というシンプルな構成のアンプです。
ローインピーダンス4Ωと、100V系ハイインピ―ダンス670Ωの出力に対応している15Wのアンプです。
PANAAMP15の内部
内部の様子です。
ヒートシンクに取り付けられたパワー部基板が1枚、トランスが1つ、メイン基板1枚の構成で、プリアンプ部はグラウンドシールド版で保護されています。
トランスは一見電源トランスのように見えますが、よく見ると「670Ω・330Ω・4Ω・0」と書かれており出力トランスと分かります。

このアンプには放送エリア選択スイッチは搭載されていませんが、電源スイッチ右側に放送エリア切換スイッチを付けるパターンが用意されており、上位グレードと共通基板であったことが分かります。
PANAAMP15の基板
ケースから基板を取り外しました。
ICは見当たらず、全段ディスクリート構成(個別トランジスタ構成)となっています。
これは回路調査し易そうです!

出力端子類やヒューズ、スイッチなども全て基板上にまとめられています。
放送エリア切換が無いモデルのため、端子部はスカスカです。

大きな部品としては、プリアンプ用の24V電源トランス、パワーアンプ用の電源コンデンサが目立ちます。
真ん中の小さいトランスは、プリ部とメイン部のカップリングトランスです。
SEPPハイインピーダンスアンプ PANAAMP15の回路図 回路構成は「差動増幅+エミッタ接地+ダーリントンエミッタホロワ+保護回路」であり、NFBは出力トランスの一時側(アンプ側)からかかっています。つまり「普通のオーディオアンプ+トランス」です。

高いゲインを得る為か、差動段・エミッタ接地段も上下対称構成になっています。
バイアス段の温度補償はサーミスタと、トランジスタの温度特性との併用になっています。(家庭用自作アンプではトランジスタの温度特性だけで済ませることもあります。)
出力段は保護回路付きのダーリントン構成となっています。 出力段に使用されている2SC2581/2SA1106は、データシートを見てみるとコレクタ・ベース間電圧は140Vと高耐圧、想定用途はオーディオ出力とDCDCコンバータとなっていました。
許容コレクタ電流10A、許容コレクタ損失 100Wと、ローインピーダンスアンプの出力段でも使えそうな特性であり、ハイインピーダンスアンプ用の特別な石というわけではなさそうです。 保護回路はICアンプなどでもよくみられる電流制限式の保護回路です。出力段のエミッタ抵抗に発生する電圧降下を監視し、2SC829/2SA564のON電圧を上回ると出力電圧をクリップし過電流が流れないように制限します。

次に参考として定格出力時のアンプ回路側出力電圧(RMS)がどの程度になっているのか計算してみます。
ハイインピーダンス使用時は出力トランスは一時側が103Ω、2次側が670Ωであることから、
巻き数比は√(670/103) より2.55と分かります。
よって定格電圧100Vを出力している際のアンプ出力電圧は、
巻き数比2.55より、100/2.55 = 40Vrms と求まります。
次にローインピーダンス使用時は、4Ω 15W出力時スピーカー電圧は
√(15*4) = 7.75Vrms。
トランス巻き数比は√(4/103) = 0.2。 よって定格出力時アンプ電圧は 7.75/0.2 = 38.75Vrms。
以上から、ローインピーダンス・ハイインピーダンスどちらで使用している場合でも、アンプ出力電圧40Vrms程度で定格出力になるような設計になっているようです。

電源周りはローインピーダンスアンプとは違い特徴的な構成になっています。
パワーアンプ用電源はトランスレス構成になっており、商用電源を分圧して作られた±50√2 (約±70V)で動作しています。
パワーアンプ部は入出力共にトランスで電源から絶縁されるため、電源トランスレスでも感電する恐れはありません。

出力トランスは、定格出力電圧100Vに対しマージンを持たせた巻き数比となっているようです。
出力トランスの一次側の最大電圧を考えてみます。
フルスイング時の最大振幅は、電源電圧50√2からドライバ段のVce(sat)とダーリントン段の2つ分のVbeが差し引かれた電圧です。
エミッタ抵抗の電圧降下を無視しそれぞれ0.2V,1.2Vとすると、トランス一次側の最大振幅は
50√2 - 1.4 = 69.3V
実効値に直すと、49Vrmsとなります。
103Ω:670Ωの巻き数比は2.55ですから、100系ハイインピーダンス端子の最大出力電圧は125Vrmsになっていると分かります。
dBで見ると100Vrmsに対し +1.9dB のマージンです。
ハイインピーダンスアンプの最大電圧は100Vrmsとされていますが、実際のアンプではトランスの損失、配線の損失、トランジスタのばらつき、電源電圧の低下等があっても100Vrmsが出せるよう余裕を持たせた設計になっているものと考えられます。

アンプの出力にトランスというインダクタが繋がる形になるため発振や誘導電圧による過電圧対策は気を付ける必要がありそうですが、回路を見る限り肝心の出力トランスさえ入手できれば特別な部品はなく、自作も可能と思われます。

同様なSEPP構成のアンプ

所有したことがあるアンプのなかで、同様な「電源トランスレス+SEPP+出力トランス」となっていたアンプをご紹介します。

D級増幅に置き換わる直前の、結構最近のモデルまで、「電源トランスレス+SEPP+出力トランス」構成は使用されていたことが分かります。
Victor PA-704の基板
JVC(Victor) の40Wアンプ、PA-704です。

メインアンプ部基板は入力カップリングトランス付きオールディスクリート構成です。
出力な大きな上位モデルと共通基板になっていたと思われ、出力トランジスタをパラレルにできるパターンが用意されています。

シルク印刷には2SC3281/2SA1302ペアが指定されていますが、2SC5200/2SA1943が実装されていました。

回路構成は、上下対称差動増幅・上下対称エミッタ接地・ダーリントンSEPP・電流制限式保護回路と、パナアンプ15とほぼ同じ構成でした。
SEPPハイインピーダンスアンプ PA-704の回路図 構成としてはパナアンプ15とほぼ同じですが、特徴的な点が2点あります。

入力部のツェナーダイオード
(ツェナー電圧 + 約0.7V)で波形がクリップされます。
アンプの入力電圧を制限し、リミッターとしての役割を持っていると推定されます。

一体化ハイパスフィルタ
ハイパス特性のアクティブフィルタが一体化されています。
フィルタ部分を理想OPアンプでシミュレーションしてみます。
PA-704のHPF特性
強めのHPF、特に約50Hz以下は3次 (-60dB/dec) の特性となっています。
ピュアオーディオ用アンプではありませんから、出力トランスやスピーカー側のマッチングトランスを磁気飽和させないために、重低音域を絞っているものと思われます。

1-2 DEPP構成の例

続いて、古めのアンプで見かけるDEPP(Double Ended Push-Pull) 構成のアンプを分解してきます。

TOA TA-254

TA-254
題材としては、放送設備が真空管からトランジスタに置き換わっていった時代の、TOAのレトロなアンプ、TA-254を分解してきます。
"SOLID STATE"と書かれている点に時代を感じますね。

出力10W、AUXとマイクの2系統入力です。
現在でいうところの、簡易呼び出しアンプに相当するものと思われます

出力トランジスタは、メタル缶パッケージのゲルマニウムトランジスタが アルミの本体ケースを放熱器として利用して剥き出しで装着されており、昭和感が満載です。
TA-254 内部
内部の様子です。
ハメコミ構成メインの最近の機器と違い、ネジで固定された部品が多く、そしてなんと小信号トランジスタはシルクハット型です!!

トランスは3つ使用されており、上の大きなトランスPT-173Cが電源トランス(Power Transformer)、下の中くらいのトランスOT-185が出力トランス(Output Transformer)、基板上の小さなトランスIT-171が入力トランス(Input Transformer)です。
DEPPハイインピーダンスアンプ TA-254の回路図
TA-254のパワーアンプ部回路図です。
比較用の参考として、当時のトランジスタラジオなどに使用されていたエミッタ接地型DEPP型のB級プッシュプル回路も載せておきます。

両回路を見比べてみると、トランジスタラジオのアンプのエミッタとコレクタを入れ替え、出力トランスをエミッタ側に持ってきたような構成になっていることが分かります。

ドライバ段はシルクハット型2SC733のA級シングル増幅、出力段はゲルマニウムトランジスタ2B407のプッシュプル、NFBはローインピーダンス用端子からドライバ段のエミッタへかけられています。

出力段のバイアス回路には、温度補償素子と思われるデバイスが抵抗と並列に付いていますが、何のデバイスかわかりませんでした。
TA-254の温度補償素子
こちらの黄色い線が出ているデバイスが、温度補償素子と思われるデバイスです。
ヒートシンク兼用ケースへ熱結合されています。
サーミスタかダイオードかといったところでしょうか?

TOA PA-1230A

PA-1230Aの内部
続いてもう少し新しめのラックマウント型パワーアンプパネルを見ていきます。
こちらのアンプは、非常用電源(DC24V)でも動作する設計となっており、またパワーアンプ専用ということで電源SWすらありません。
どのようにしてDC24Vの電源から120Wを取り出しているのか、非常に興味があります。
PA-1230Aの内部
内部は、黒いケースに収まった「いかにもアンプ用」な電源トランスと、出力トランスが目立ちます。
電源コンデンサは一つで、単電源構成となっています。

電源トランスの定格は26V・204.7VAであり、DC/AD共用ではありますがAC電源動作時はDC24V以上の電圧で動作していることが分かります。
またトランジスタは全段プラスチックモールドパッケージのシリコントランジスタが使用されています。
DEPPハイインピーダンスアンプ PA-1230Aの回路図
電源部含め、全回路を起こしてみました。
全段NPNトランジスタ構成となっており、出力段は120W出力するだけあってドライバ段付きのパラレルプッシュプル接続となっていますが、構成としてはTA-254同様のセンタタップ式のDEPPエミッタフォロワ回路となっています。

放送設備ならではの構成として、DC 24V 対応で120Wもの大出力を得る為、ローインピーダンススピーカーに対しても出力トランスは昇圧動作しているのが特徴的です。
4Ωのローインピーダンススピーカーをサイン波にて120Wで鳴らすためには、
P = V^2 / R より V = √ PR より
P = 120W , R = 4Ω とすると 22Vrms 必要です。
つまりピークトゥピークでは 62Vpp 必要となり、電源電圧DC24VではBTLにしてもトランスレスでは120Wは得られません。
そこで出力トランスの出番です。
出力トランスの1次側インピーダンスは印字はされていませんでしたが、電圧を測定し巻き数比から計算すると約1.7Ωとなっていました。

電源部はAC100VとDC24Vの2電源に対応しますが、DC24Vは非常用蓄電池での使用を想定しています。
AC電源使用時用のトランスの定格は26V 204.7VA となっており、平常時は大出力時にも蓄電池から電力を吸わないよう余裕を持たせているようです。
DC電源とAC電源はリレー等は用いずダイオードで接続されており、AC電源が失われると瞬時にDC電源に切り替わるようになっています。平常時はパワーアンプ電源電圧は24Vより高いためダイオードS20CはOFFとなり電力はAC電源から供給されます。AC電源が失われコンデンサが(24V-0.6V)以下まで放電すると、ダイオードS20CがONになり、放送が途切れることなくDCからの給電に切り替わります。
また、無信号時はパワー段の電源電圧は約36V (26√2 - 1.2)まで電源電圧が上昇していますが、出力段のバイアス回路及びプリアンプ部の電源は定電圧化されており、DC電源~AC電源無信号時までの幅広い電圧変動に対し安定に動作します。

入力部はインプットトランスを用いた平衡入力端子が2つ用意されており、複数のアンプを並列接続するために2つの端子は内部で並列接続されています。母校の小学校の校内放送設備では、このようなラックマウント型アンプが3台並んで収まっていた記憶があります。
またモノラルのホーンプラグを接続し非平衡入力として使用する際も、入力のグランドは筐体アースからトランス・コンデンサによりDC的に絶縁され、グランドループが出来ないような構成となっています。

以上、SEPPタイプ・DEPP対応2種類のアナログハイインピーダンスアンプの構成を見てきました。
近年ではD級構成のアウトプットトランスレスのアンプもありますが、修理需要や中古入手となるとまだアナログアンプがメインと思われます。
掲載情報が少しでもお役に立てたら幸いです。

1-3 <参考>D級の例

続いて、現行のD級増幅(デジタルアンプ)タイプを見てみます。
現行型であるのと表面実装多層基板でトレースが大変なため、簡易調査の参考情報とします。

Panasonic WA-HA031

WA-HA031外観
2015年製の Panasonic 卓上型拡声アンプ WA-HA031 です。
ローインピーダンス4Ωと、100系ハイインピーダンス5局に対応した30Wのアンプです。

3LEDレベルメーターが付いています。
無負荷 1kHz にて発行電圧を真の実効値テスターで測ってみました。

-30dB : 4V (-28dB)
-10dB : 35V (-9.1dB)
ピーク: 86V (-1.3dB)

ピークは100Vより余裕を持たせて点灯するようになっているようです。

背面は、従来の各種拡張端子だけでなく、拡張I/FとしてLANポートが搭載されておりデジタル時代の設計らしい外観です。
低発熱のD級アンプのためか、天板に放熱孔が全く無いのがアナログアンプと比べると特徴的です。
WA-HA031の内部
回路はほとんどが表面実装部品で構成され、マイコンボードのような見た目です。

電源部はスイッチング電源が採用されています。

中央のトランスが出力トランスです。

高効率なD級アンプということで、パワーアンプ部(手前中央の基板)にヒートシンクはついていません。
WA-HA031のパワーアンプ部
パワーアンプ部は出力スイッチング素子まで含めたワンチップICを用いた構成となっています。
未実装のエリアが目立ちます。
右下"MODEL NAME"のシルク印刷を見ると3つ選択肢があり、別のモデルと共通基板になっているものと思われます。
Ach,Bchと2ch分の回路があり、Ach側だけが実装されています。

パワーアンプ基板上には、出力LPF用のインダクタと大きなフィルムコンデンサが目立ちます。
LPF用インダクタは、サガミエレクのD級アンプ用インダクタが使用されています。

出力トランスは、一次側が6Ω、2次側が4Ω及び333Ω となっています。
パワーアンプIC TAS5611A は調べるとローインピーダンスアンプ用のICです。
LPFまでのパワーアンプ基板としては6Ωのローインピーダンスアンプであり、外付けのトランスを付けることで全体の構成として「ローインピーダンスアンプ+インピーダンス変換トランス」によりハイインピーダンスアンプとなっています。
デジタルハイインピーダンスアンプ WA-HA031の回路図
※ 引用したTAS5611Aデータシートは以下からダウンロードできます。
125W ステレオ、250W モノラル、16 ~ 34.1V 電源電圧、アナログ入力 Class-D オーディオ・アンプ

パワーアンプICは TEXAS INSTRUMENTS の TAS5611A が使用されています。
多チャンネル用ICの半分だけ使っています。
D級アンプは負荷の両端をアンプで駆動するフルブリッジ接続となっています。
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2-1 出力先選択スイッチ

ここからは、放送設備を構成している周辺回路を見ていきます。
TA-254
上側がTA-2060の電子制御式スイッチ(マイコン+電磁リレー)、下がWA-721の機械式スイッチです。
どちらも個別放送と一斉放送があり、TA-2060は緊急一斉放送(3線式スピーカーのR端子の制御)にも対応しています。

通常の一斉放送の緊急一斉放送の違いは、スピーカー側のスイッチやアッテネータを無効にして放送するか否かの違いです。

・通常一斉:単純に全ての個別回線スイッチをONにするのと等価です。スピーカ側でOFFになっているスピーカーは鳴らず、アッテネータも有効です。

・緊急一斉:OFFになっているスピーカーも鳴り、アッテネータが入っていても最大音量で鳴ります。

緊急一斉は非常用放送設備での火災放送などでの使用が想定されていますが、TA-2060のような業務用専用のアンプでも緊急一斉機能を持っているアンプもあります。業務用途では、例えばアッテネータが絞られている会議室などに業務連絡を放送したい際などに緊急一斉を使用できます。
放送先選択スイッチの回路例
スイッチの動作について

スイッチ回路では重要なポイントがあります。OFFを選択した端子は、オープンではなくCへショートされます!
照明などの電源スイッチと異なり、オープンにはならないので注意が必要です。

使わない回路がショートされるのはクロストークを防いで確実にOFFするためと思われます。
放送設備では各スピーカー回線の配線はアンプ付近で同じ電線管へ収まるなどして近接します。
すると配線間容量で信号が漏れ出してしまい、クロストークが発生します。

回線を開放にした場合のクロストークは次のような実験してみると確認することができます。
合成インピーダンスが高めの2線式回線を一つ選びオープン(アンプ背面から実験する回線のN配線を取り外しC端子はそのまま)にし、一斉放送で激しめの曲を大きめの音量で再生します。音質調整がある場合、高音MAXにしておくとわかり易いです。
オープンにしたはずのスピーカーに耳を近づけてみると、イヤホンの音漏れのようなシャカシャカ音が聴こえます。
原理としては、近接して設置された配線同士がコンデンサを形成(線間容量)し、スピーカー側の入力インピーダンスと前記線間容量との間でハイパスフィルタが形成され、結果的に高音域だけが聴こえてきます。
一方、スピーカー回線をCにショートしておけば、線間容量を通ってきた信号はショートされるためスピーカー側へは流れず、不要な回線へのクロストークを発生させず確実にOFFすることが可能です。

また、表示が強電工事と逆になる点にもうっかり配線をミスらないよう注意が必要です。
照明などの強電電気工事では"N"は"Neutral"(中性線)でコールド側です。クルマと一緒なのでわかり易いですね。
一方、放送設備での"N"は"Normal"(通常)で通常放送用のホット側であり、コールド側の表示は"Common"(共通)の"C"となります。

緊急一斉放送について

次に回路図を用いて緊急一斉放送の動作を見ていきます。
簡単のため、アッテネータではなくON/OFFスイッチのみの3線式スピーカーを考えます。
また、BGMなどの常時ON用回線であり、個別の回線切り替えスイッチは使用せずスピーカーのN端子はアンプのH端子へ配線しているものとします。
通常時の動作
通常時、R線はアンプ内部でC線へ接続されます。
一方、スピーカー側の手元スイッチはトランスのホット側をN線かR線のどちらへ接続するかを選択する回路になっています。

まず、スピーカー側手元スイッチがONの場合はスピーカーの入力はH線・C線間に接続されるため、スピーカーが鳴ります。

一方、スピーカー側手元スイッチがOFFの場合、スピーカーの入力はR線・C線間に接続されます。ここでR線=C線ですから、スピーカーの入力は共にC線、つまり入力ショートされることになりスピーカーは鳴りません。
緊急一斉時の動作
次に緊急一斉放送時を考えます。
緊急一斉放送時、R線はアンプ内部でH線へ接続されます。

スピーカー手元スイッチがONの場合は、通常時と同様の回路でスピーカーの入力はH線・C線間に接続され、スピーカーが鳴ります。

一方、スピーカー手元スイッチがOFFの場合は、通常時と異なりR線=H線となっていますから、スピーカーの入力はH線・C線間に接続されスピーカーが鳴ります。

つまり、緊急一斉放送ではアンプ側でスピーカーの手元スイッチを無効化し、OFFになっているスピーカーからも放送が鳴ります。
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