磁界変化観測用VLFアンプの製作
雷・スプライト等の発生位置評定のための電波観測機器



重要
●このサイトを参考に回路等を製作された場合、不具合や事故等が起きましても私は一切責任を取ることができません。すべて自己責任でお願いします。

●本サイト中で「直交ループアンテナ」というものがたびたび登場しますが、観測システムを共同製作した都合上、私は回路担当であったため、アンテナ製作者の知的所有権の都合上写真はアップできませんのでご了承ください。
※直交ループアンテナとは、円形のループアンテナが、直径の軸を重ねて、直角に交わっているものです。
<目次>

1 はじめに  2 製作したアンプの概要  3 VLFアンプ内部回路・写真と説明


  3(1) 屋上ボックス回路  3(2) 室内ボックス回路  3(3) 周波数特性

4 ノイズ対策のシールド  5 ノイズ対策の限界とアンテナ設置上の注意

1 はじめに

 「VLF帯域でスプライトの電波観測やりたいから回路作って」と言われたことから始まったVLFアンプの製作。静岡県某所から山陰沖で発生するイベントを観測したいとのことで、アンプを高ゲインにしたため、様々な問題にあたりましたが、設計変更や改良を経て、掲載した形に落ち着きました。
 雷やスプライト等のイベントが発生した位置を推定したいとき、放電現象に伴って発生する電波を観測することによって、それらのイベントが発生した位置を推定することがあります。放電現象に伴って発生する電波は数十Hz~数十MHzという広い帯域で出ていますが(だから近くで落雷があった際は、AMもFMも安物オーディオアンプも「ザザッ」という)、その中からVLF帯域を選択すると可聴周波数帯域なので回路も解析も記録も、後々楽になります。
そのため、一般的に雷等の電波観測にはVLF帯による観測が行われます。VLF帯の人工電波としての利用としては、潜水艦通信などが上げられます。
このページで紹介するアンプは、放電現象を観測する目的のためにVLF帯(超長波帯)の電波を受信して増幅するアンプです。そのため、VLF帯通信の受信には使えませんが、遠くで起きた雷の位置を求めたり、高感度アンプとして遊んだり・・・工夫次第です。

本アンプは、放電現象観測用に依頼を受けて製作したものなので、セパレート構造となっているなど、接続等が特殊になっています。このサイトをご覧になっている方の中にはスプライト等のVLF観測をお考えの方もいらっしゃると思いますが、設置方法や仕様などは、発光現象発生地までの距離やノイズの状況等、使用場所の環境に合わせて変更してください。変更する場合は、こちらもお読みください。


2 製作したアンプの概要(設置の工夫等)

前述のとおり、かなり使用条件に合わせて方針を決めたので、回路のみ知りたい方や、使用条件が違う方(室内にアンテナも設置など)はこの章をとばしてください
 今回は、自然界の放電現象の観測ということで設計したため、アンテナは直交ループアンテナとし、屋上に増幅器を設置して、室内に電源回路部と出力回路部をおくことでノイズの低減を図ります。
配置略図を以下に示します。
接続略図 直径1mの直交ループアンテナでVLF帯を受信し、南北・東西の各信号を屋上ボックス内で増幅します。 電源は室内ボックスから供給され、信号も室内へ送ります。片付けやメンテの利便性を考えてコネクタで接続しました。コードはシールド線を使用します。


屋上コネクタ
屋上コネクタは、ショートしたり、雨で漏電したりしないように、個別にビニルカバーがかけてあるタイプを使用しました。


室内ボックス内部
室内ボックス内には電源回路と出力回路、音声によりリアルタイムでVLF信号をモニターするためのモニタースピーカーを内臓しました。電源はAC100Vを使用し、記録にはパソコンを使用しています。
室内ボックス背面の接続部も端子を使用し、清掃やメンテナンス時に取り外しを楽にできるようにしました。そして、内部にトランスや電源回路があるため、放熱孔を設けました。

屋上ボックス屋上ボックス   室内ボックス室内ボックス

屋上ボックスは防水ケースを使用し、コード通し穴は、浴室のコーティング等に使われるシリコンゴムで防水しました。


3 VLFアンプ内部回路・写真と説明

放電現象電波観測用VLFアンプはオペアンプでの構成が一般的な中・・・増幅回路部ディスクリート構成!!!

最初はオペアンプで製作しましたが、正負電源メンドイ、屋上まで30Vもの電源を送ると漏電の危険がある→そのためアンテナから長距離伝送してノイズが乗る、などの諸問題が発生したので設計変更したという経緯があります。遠距離受信で感度を上げるには、トランジスタが大量に内蔵されている安物ICをたくさんつなげるより、トランジスタを沢山つなげたほうが増幅にかかわる素子を必要最小限にできるため、ノイズの面ではいいようです。オーディオ用低雑音オペアンプは高いし、低電圧オペアンプは高いし、やっぱ安い汎用トランジスタがいいです。型番としては、やっぱり2SC1815ですね。
失敗作アンプの回路図です。回路図を描く便利な道具を入手する前なので、図が汚いですが・・・
旧カスアンプ


(1)屋上ボックス

屋上ボックス
屋上ボックス。
ノイズの混入を防ぐため、主要部分はアンテナの近くに設置します。
屋外への設置となるため、回路基板は屋外配線などに使われる防水ケースの中に納めました。


A 屋上に設置したVLFアンプ(アンプの主要部、この回路を東西用と南北用に2個内臓)

屋上アンプ回路図

 パーツ数を減らし、後に簡単に性能を変更しやすいように簡単な簡単にするため、典型的な自己バイアス型エミッタ接地増幅回路を用いました。音質は問題とならないため、NFBなどは設けてありませんので、この回路をマイクアンプ等に流用すると音質が悪いのでご注意ください。
まず入力部は、ループアンテナで受信された信号をそのまま増幅器に入力するとAM放送が初段で トランジスタ検波されて聞こえてしまったため、入力部にAM放送をカットするローパスフィルタを設けました。
次に電圧増幅部ですが、初段は電圧増幅器にローパス特性を持たせて、増幅器とともにローパスフィルタの働きをさせてあります。2段目3段目についても、異常発振防止用にローパス特性を持たせました。エミッタ設置の出力はインピーダンスが高く、そのまま長距離伝送すると発信等の原因になるので、4段目は、エミッタホロワで出力インピーダンスを下げてから室内ボックスへケーブル伝送することで動作の安定化を図っています。そして、各増幅回路間の結合コンデンサーを小容量とすることで、ハイパスフィルターの働きをもたせています。
 トランジスタは、電子工作の世界では知らない人はいないと思われる(言いすぎ?)ほど有名な、
"2SC1815"のGRランクを使用しました。秋月電子の通販サイトで、パックで買うと安いです。他のトランジスタを使用する場合は、hfeに合わせてバイアス抵抗等を工夫してください。バイアス点がずれると大振幅時に波形がつぶれます(回路の世界では"クリッピング"と呼ばれる現象)。
屋上ボックス基板

屋上ボックス内基板写真。右上の大型部品は、電源回路部の3端子レギュレータです。
左側が入力側です。


B 屋上ボックス内電源回路

屋上アンプ電源回路

屋上電源フィルタ
 VLFアンプの主要部である屋上ボックスのアンプ回路を、安定動作させるための回路です。
 室内ボックスから、安定化された直流電源を供給しているとはいえ、電源を約20メートルもケーブルで引っ張ってくるので、ノイズを拾ったり、ケーブルの内部抵抗で電源が不安定になることが考えられます。高ゲインなアンプのため、電源のノイズは出力に現れますし、電源が不安定になると異常発振を起こします。そのような要素をこの回路で除去します。
 ダイオードは、室内ボックス背面での電源の配線をミスした際に屋上アンプ回路を壊さないよう、1Aタイプの整流用を入れました。
次に、コイルとコンデンサを用いたLCフィルタで、ケーブルから電源ラインへ混入したノイズを除去します。また、ここの電解コンデンサーにより、電源が安定します。
さらに、3端子レギュレーターICを用いて、5Vの定電圧をアンプ回路に供給します。


(2)室内ボックス

室内ボックス  室内ボックス

室内に設置し、電源回路や音声回路が内蔵されています。


A 室内ボックス内音声回路(出力バッファ回路及びモニター回路)

室内アンプ回路図

バッファー  (1)Aで示したとおり、屋上ボックスの出力段にはエミッタホロワを設けてあるため、低出力インピーダンスで出力されます。しかし、屋上ボックスから室内ボックスまでの約20メートルをケーブルで伝送するため、そのままパソコンへ接続すると動作が不安定になる恐れがあります。そこで、エミッタホロワを用いて屋上からの信号を再度低インピーダンスで記録用パソコンへ送る構造にしました。

モニター  また、点検や、VLFの音声を耳でリアルタイムにモニターできるよう、小型スピーカー及び駆動用パワーアンプを内臓しました。
アンプはLM386相当品を使用しました。スイッチでモニターする信号を東西・南北から選択し、音量調整用ボリウムを通した後パワーアンプに入力します。通常はモニタースイッチは「切」にしておき、必要なときのみ使用します。


B 室内ボックス内電源回路

室内ボックス電源回路

 電源回路部です。この回路で、VLFアンプで使う直流電源を得ます。ACアダプタを使用すると楽なのですが、スイッチでAC100V側を切れずに電源OFF時でも無駄な電力が常に消費され(スイッチングACアダプタや、3端子レギュレーター内臓タイプの場合は特に)、さらに記録用パソコン等で混雑しているテーブルタップ周辺を余計に混雑させてしまうので、ACアダプタの使用はやめました。
トランス
 トランスは、電子部品店で購入した12V_0.3Aのものを使用し、

電源回路
ブリッジ型全波整流回路で直流に直しました。そして3端子レギュレーターで、安定化させるとともにリップルを除去しました。
 安全装置としては、AC100Vラインと、屋上へDC9Vを送るラインにガラス管ヒューズを設けました。
 
室内ボックスフロントパネル
 電源スイッチは、LED内蔵タイプを使用し、昼間の消し忘れや夜間の付け忘れを防止しています。写真は消灯時なのでわかりにくいですが、一番左のスイッチです。


(3)製作したアンプの周波数特性

 アンプは雷等の放電現象観測用のため、ノイズ周波数特性を持たせて設計しました。そこで、観測に使用しているアンプの周波数特性を知っておくと解析に役立つこともあるので、実際にどんな特性を示しているのか調べました。

 周波数特性は以下の接続で測定しました。

CDプレーヤー→アッテネーター→VLFアンプ→→パソコン(ピーク値測定)
CDプレーヤー→アッテネーター→→→→→→→→パソコン(ピーク値測定)

※音源はオーディオチェックCDをポータブルCDプレーヤーで再生し、波形解析にはフリーソフトのWaveSpectraを使用してピーク値解析し、グラフを得ました。

 解析は、まず1KHzを再生して、アンプを通した信号と通さない信号の音量をアッテネーターで同じ音量に合わせた後、ホワイトノイズ信号(低音から高音まで同じ音量で連続的なスペクトルの信号)を再生し、1KHzを基準とした相対的な周波数特性を求めました。  
そのため、次に示すグラフのdBは、1KHzを基準とした相対的な周波数ごとの音量の比を表しているのみで、具体的な増幅率を示しているわけではないのでご注意ください。

製作したVLFアンプの周波数特性
周波数特性

※入力特性(赤い線)は、20Hz~20KHzまでほぼ連続スペクトルとなっていますが、 CDプレーヤーの周波数特性の影響を受けて低音(20Hz~40Hz)と高音(15KHz~20KHz)が少し下がっています。


4 ノイズ対策のシールド

 電源フィルタやシールドケーブルの使用、バンドパスフィルタなど、ノイズを意識して設計したものの、実際に使用してみると「ビー」という音のノイズがひどかったため、低減させるように改良を施しました。
 方法は、プラスチック製のケースに収まっている屋上アンプのシールドと、ループアンテナ接続部のシールドです。

アンテナコードシールド アンテナケーブルのシールドには粘着アルミテープを使用

屋上ケースのシールド ケースも回路周辺を粘着アルミテープと、薄いアルミ板でシールド

屋上ふたシールド
 ふたも薄手のアルミ板でシールド。ねじの部分も粘着アルミテープで
 しっかりとふさぎました。


5 ノイズ対策の限界とアンテナ設置上の注意

 ノイズ対策を施しても、実際に使用してみるとノイズが入ります。都市部にアンテナを設置し、アンプが高ゲインの場合は、ノイズ対策には限界があります。
混入するノイズとしては、まずハム音は入いりますが、アンプに周波数特性があるのでそれほど気になりません。気になるノイズは、オーディオアンプの入力を指で触れたときに聴こえるような「ビー」とか「キーン」とかいうようなノイズです。それは、VLF帯を飛び交っているノイズをアンテナから拾ってしまうからで、これはどうしようもありません。ノイズは、送電線や家電製品やIT機器など、様々なものから発生することがあります。
 そこで、ノイズが少しでも少ないところを探してアンテナを設置し、アンテナ周辺にエアコン室外機などのノイズ元がないようにすることが必要です。また、必要以上にアンプやアンテナのゲインを上げすぎないことも必要です。ループアンテナの巻き数などを調整する必要があります。
 VLF電波観測の直交ループアンテナは、テレビのアンテナのように特定方向にだけ指向性が鋭ければよいというわけではなく、むしろ逆です。いくらノイズがひどくても、ノイズ襲来方向のアンテナをシールドしてはいけません。雷等の電波観測をする場合、360度全方向に感度がなければならず、もし一方向のみシールドしてしまうと、結果が狂ってしまうからです。
 それとアンプが高ゲインの場合、長期間使用していると、ある日突然ノイズが入ったり、ある日はきれいだったりと、いろいろ起こります。これは、隣の家で掃除機を使用したとか、様々な要因がありますが、あまりにもひどいノイズが長期間続く場合は、アンテナを移動させましょう。

 機器のトラブルの場合は、異常発振を起こすなど、明らかに変な音がします。



最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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E-MAIL:mailあっとmail.hmcircuit.jp
までお願いします。お答えできる範囲で対応いたします。
スパム対策のため、必ず件名に「VLF」などのわかりやすい単語を入れてください。

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